2026/04/01 20:08



今回は、最近のアンスリウムのTC苗普及を受けて、それらを実際に作る人がどのような苦労をされているのかに迫りたいと思います。

インタビュー形式で、対談相手は専門家・パク・ジュハン(朴珠韓)氏。

アンスリウムのTCの現在地に関して、技術の壁と、その未来が見えてきました。

まずは、対談した朴先生のプロフィールを紹介します。

【プロフィール:パク・ジュハン(朴珠韓)氏】

韓国・建国大学 生物学科卒業。

現在は大学教員として「植物組織培養講座」を担当する傍ら、食虫植物専門ブランド『Seoul Pitcher Plants』の代表を務める。

アカデミックな知見と、生産現場のリアルな視点を併せ持つ、TCのスペシャリスト。


【インタビュー】
Anthuroom:
本日はよろしくお願いします。

アンスリウムのTC(組織培養)は、他のサトイモ科植物に比べて非常に難易度が高いと聞きます。大学で教鞭を執り、現場でも多くの品種を手がけるパク先生から見て、その一番の理由は何でしょうか?

パク・ジュハン(以下、パク):
よろしくお願いします。

アンスリウムが他のアロイドと決定的に違うのは、「内生菌(エンドファイト)」の存在です。

人間でいう毛細血管のような微細な導管の隅々にまで、菌が入り込んでいるんですよ。

Anthuroom:
それは、人間の腸内細菌のように、植物と共生しているイメージですか?

パク:
その通りです。

そのため、表面を殺菌しただけでフラスコに導入しようとしても、組織の内部から菌がじわじわと滲み出してきて、あっという間にコンタミネーション(汚染)を引き起こします。

この「内側の菌」をどう制御するかが、熟練の技術者でも頭を抱える最大の壁なんです。

■「種子TC」は容易だが、それは「ガチャ」である

Anthuroom:
一方で、「種子からならTC化は比較的容易だ」というお話も以前に直接伺いました。

いわゆる成長点(芽の部分)を使ったクローン技術とは何が違うのですか?


パク:
種子の内部にある「胚(豆の部分)」は、多くの場合、無菌状態なんです。

内生菌がいないので、フラスコ導入の成功率は格段に上がります。

Anthuroom:
なるほど。でも、種子だと親と全く同じ姿になるとは限らないですよね。

パク:
ええ。種子TCはいわば「ガチャ(引き)」のようなもの。育ってみるまでどんな形質になるか分からないので、特定の優良個体を固定して増やしたいという目的には向きません。

だからこそ、リスクを冒してでも成長点からクローンを作る研究が、今も世界中で続けられているのです。

■Delta ForceやNSE Portillaeに見る「TCの未来」

Anthuroom:
最近では「Delta Force」や「NSE Portillae」など、かつての超希少個体がTC化され、市場に流通し始めています。このトレンドはどう見ていますか?

パク:
当然の帰結だと思っています。難しいだけで、不可能ではありませんから。

実際に、私の研究室でも、斑入りのクラリネルビウムをはじめ、成功例は増えていますし、今後この技術は世界中に広がっていくでしょう。

Anthuroom:
そこで気になるのが「遺伝的な安定性」です。

TC苗は、本当に親株の形質を完璧に再現できているのでしょうか?

パク:
それは非常に重要な視点です。何世代も増殖を繰り返すと、遺伝子が変異し、親株とは異なる姿になるリスクはゼロではありません。

こだわりを持つ園芸家や研究者は、TC苗であることを明記した上で、その後の成長を継続的に追跡・観察していく責任があると考えています。

■細胞採取は、親株にとって命がけ

Anthuroom:
個人的に気になっていたことを教えてください。

細胞を採取された親株(母株)には、どのような影響があるのでしょうか。

パク:
正直に言えば、かなりのリスクとダメージを伴います。

Anthuroom:
やはり、そうなんですね。

パク:
葉の一部なら一枚失うだけで済みますが、成長点(芽)を採取する場合は話が別です。

脇芽が出るまで長い時間がかかりますし、運が悪ければ傷口から感染症を起こし、親株そのものが枯れてしまうこともあります。

Anthuroom:
まさに命がけの採取なんですね。

パク:
だからこそ、私たちは最高に健康な個体を慎重に選び、採取後も徹底的にケアをします。

皆さんが手にするアンスリウムのTC苗一つ一つの裏には、そうした親株の犠牲や、技術者の計り知れない試行錯誤が隠されているのです。

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【取材を終えて】
パク先生のお話を通じて、TC苗は単なる「安価な代用品」ではなく、高度な技術と親株へのリスクの上に成り立つ「結晶」なのだと再確認しました。

技術が普及し、希少種が手に入りやすくなる今だからこそ、私たちはその一鉢が持つストーリーをより深く理解し、大切に育てていく必要があるのかもしれません。